ゆきちゃん
雪ちゃん

冒頭文

学校の昼の休みに赤門(あかもん)前の友の下宿の二階にねころんで、風のない小春日の温かさを貪(むさぼ)るのがあの頃の自分には一つの日課のようになっていた。従ってこの下宿の帳場に坐っていつもいつも同じように長い煙管(きせる)をふすべている主婦ともガラス障子越しの御馴染(おなじみ)になって、友の居ると居ないにかかわらず自由に階段を上るのを許されていた。 ここな二階から見ると真砂町(まさごちょう

文字遣い

新字新仮名

初出

1900(明治34)年

底本

  • 寺田寅彦全集 第一巻
  • 岩波書店
  • 1996(平成8)年12月5日