よるふく
夜福

冒頭文

一 青笹の描いてある九谷の湯呑に、熱い番茶を淹れながら、久江はふつと湯呑茶碗のなかをのぞいた。 茶柱が立つてゐる。絲筋のやうなゆるい湯氣が立ちあがつてゐる。 「おばアちやん、清治のお茶、また茶柱が立つてゐますよ」 雪見障子から薄い朝の陽が射し込んでゐる。 久江はその湯呑茶碗をそつと持つて、お佛壇の棚へそなへた。佛壇の中には、十年も前に亡くなつた父や伯母の位牌が

文字遣い

旧字旧仮名

初出

底本

  • 旅館のバイブル
  • 大阪新聞東京支社
  • 1947(昭和22)年2月1日