一 青笹の描いてある九谷の湯呑に、熱い番茶を淹れながら、久江はふつと湯呑茶碗のなかをのぞいた。 茶柱が立つてゐる。絲筋のやうなゆるい湯氣が立ちあがつてゐる。 「おばアちやん、清治のお茶、また茶柱が立つてゐますよ」 雪見障子から薄い朝の陽が射し込んでゐる。 久江はその湯呑茶碗をそつと持つて、お佛壇の棚へそなへた。佛壇の中には、十年も前に亡くなつた父や伯母の位牌が