こうふくのかなた
幸福の彼方

冒頭文

一 西陽の射してゐる洗濯屋の狭い二階で、絹子ははじめて信一に逢つた。 十二月にはいつてから、珍らしく火鉢もいらないやうな暖かい日であつた。信一は始終ハンカチで額を拭いてゐた。 絹子は時々そつと信一の表情を眺めてゐる。 長らくの病院生活で、色は白かつたけれども少しもくつたくのないやうな顔をしてゐて、耳朶の豊かなひとであつた。顎が四角な感じだつたけれども、西陽を眩し

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 林芙美子全集 第十五巻
  • 文泉堂出版
  • 1977(昭和52)年4月20日