たまがわ
多摩川

冒頭文

あまり暑いので、津田は洗面所へ顏を洗ひに行つた。洗面所には大きい窓があつたが、今日はどんよりして風ひとつない。むしむしした午後である。 「津田さん、お電話ですよ」 津田が呆んやり窓の外を眺めてゐると、女給仕が津田を呼びに來た。オフイスへ戻つて卓上の電話へ耳をあてると、 「津田さん? 津田さんでいらつしやいますか?」 と、女の優しい聲がしてゐる。 「私、くみ子です……御

文字遣い

旧字旧仮名

初出

底本

  • 女優記
  • 新潮社
  • 1940(昭和15)年8月13日