あるおんな
或る女

冒頭文

何時ものやうに歸つて來ると、跫音をしのばせて梯子段へ足さぐりで行つたが、梯子段の下の暗がりで、良人の堂助が矢庭に懷中電燈をとぼした。たか子はぎくつとして小さい叫び聲を擧げた。 「何さ‥‥まだ、あなた、起きていらつしたの?」 「寢てればよかつたのかい?」 「厭アな方ねえ、一寸遲くなるとこれなンですもの‥‥あなたのお時計、いま幾時なンですの?」 さう云つて、たか子は暗がりの中へつつ立つ

文字遣い

旧字旧仮名

初出

底本

  • 氷河
  • 竹村書房
  • 1938(昭和13)年3月20日