びょういんのよあけのものおと
病院の夜明けの物音

冒頭文

朝早く目がさめるともうなかなか二度とは寝つかれない。この病院の夜はあまりに静かである。二つの時計——その一つは小形の置き時計で、右側の壁にくっつけた戸棚(とだな)の上にある、もう一つは懐中時計でベットの頭の手すりにつるしてある——この二つの時計の秒を刻む音と、足もとのほうから聞こえて来る付添看護婦の静かな寝息のほかには何もない。ただあまりに静かな時に自分の頭の中に聞こえる不思議な雑音や、枕(まくら

文字遣い

新字新仮名

初出

「渋柿」1920(大正9)年3月

底本

  • 寺田寅彦随筆集 第一巻
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1947(昭和22)年2月5日、1963(昭和38)年10月16日第28刷改版