びざん
眉山

冒頭文

これは、れいの飲食店閉鎖の命令が、未(いま)だ発せられない前のお話である。 新宿辺も、こんどの戦火で、ずいぶん焼けたけれども、それこそ、ごたぶんにもれず最も早く復興したのは、飲み食いをする家であった。帝都座の裏の若松屋という、バラックではないが急ごしらえの二階建の家も、その一つであった。 「若松屋も、眉山(びざん)がいなけりゃいいんだけど。」 「イグザクトリイ。あいつは、うるさい

文字遣い

新字新仮名

初出

「小説新潮」1948(昭和23)年3月

底本

  • 太宰治全集9
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1989(平成元)年5月30日