しょさいとほし
書斎と星

冒頭文

『東京にはお星さんがないよ。』 と、うちの子はよく言ふ。 『ああ、ああ、俺には書斎がない。』 これはその父であるわたくし自身の嘆息である。 まつたく小田原の天神山はあらゆる星座の下に恵まれてゐた。山景風光ともにすぐれて明るかつたが、階上のバルコンや寝室から仰ぐ夜空の美しさも格別であつた。これが東京へ来てほとんど見失つて了つた。それでもまだこの谷中の墓地はいい。時とすると

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 日本の名随筆 別巻6 書斎
  • 作品社
  • 1991(平成3)年8月25日