ははおや
母親

冒頭文

みを子が会社を馘(くび)になってから、時々、母親の全く知らない青年が訪ねて来た。 朝早くやってくることもあれば、昏れてからくることもあった。青年は一度でも、「こんちは」とか、「御めん下さい」とかいったためしがない。人の出てくるまで、のっそりと土間の隅に立っていた。 「みをさんいますか?」 ただそれだけいった。額の高い、眼の黒い、やや猫背の男——しかし一度、会った人は忘れないで

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 渡良瀬の風
  • 武蔵野書房
  • 1998(平成10)年11月9日