めいじにじゅうし、ごねんころのとうきょうぶんかだいがくせんか
明治二十四、五年頃の東京文科大学選科

冒頭文

私共が故郷の金沢から始めて東京に出た頃は、水道橋から砲兵工廠(こうしょう)辺はまだ淋しい所であった。焼鳥の屋台店などがあって、人力車夫が客待をしていた。春日町辺の本郷側の厓(がけ)の下には水田があって蛙が鳴いていた。本郷でも、大学の前から駒込の方へ少し行けば、もう町はずれにて、砂煙の中に多くの肥車(こえぐるま)に逢うた。 その頃には、今の大学の正門の所に粗末な木の門があった。竜岡町の方が

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 日本の名随筆 別巻95 明治
  • 作品社
  • 1999(平成11)年1月25日