びせいのしん
尾生の信

冒頭文

尾生(びせい)は橋の下に佇(たたず)んで、さっきから女の来るのを待っている。 見上げると、高い石の橋欄(きょうらん)には、蔦蘿(つたかずら)が半ば這(は)いかかって、時々その間を通りすぎる往来の人の白衣(はくい)の裾が、鮮かな入日に照らされながら、悠々と風に吹かれて行く。が、女は未だに来ない。 尾生はそっと口笛を鳴しながら、気軽く橋の下の洲(す)を見渡した。 橋の下の

文字遣い

新字新仮名

初出

「中央文学」1920(大正9)年1月

底本

  • 芥川龍之介全集3
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1986(昭和61)年12月1日