うみ

冒頭文

……らすほどそのなかから赤や青や朽葉(くちば)の色が湧いて来る。今にもその岸にある温泉や港町がメダイヨンのなかに彫り込まれた風景のように見えて来るのじゃないかと思うくらいだ。海の静かさは山から来る。町の後ろの山へ廻った陽がその影を徐々に海へ拡げてゆく。町も磯も今は休息のなかにある。その色はだんだん遠く海を染め分けてゆく。沖へ出てゆく漁船がその影の領分のなかから、日向のなかへ出て行くのをじっと待って

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 檸檬・ある心の風景
  • 旺文社文庫、旺文社
  • 1972(昭和47)年12月10日