とうようのあき
東洋の秋

冒頭文

おれは日比谷公園を歩いてゐた。 空には薄雲が重なり合つて、地平(ちへい)に近い樹々(きヾ)の上だけ、僅(わづか)にほの青い色を残してゐる。そのせゐか秋の木(こ)の間(ま)の路は、まだ夕暮が来ない内に、砂も、石も、枯草も、しつとりと濡れてゐるらしい。いや、路の右左に枝をさしかはせた篠懸(すずかけ)にも、露に洗はれたやうな薄明りが、やはり黄色い葉の一枚毎(ごと)にかすかな陰影を交(まじ)へな

文字遣い

新字旧仮名

初出

「改造」1920(大正9)年4月

底本

  • 芥川龍之介作品集 第四巻
  • 昭和出版社
  • 1965(昭和40)年12月20日