きかんしゃをみながら
機関車を見ながら

冒頭文

……わたしの子供たちは、機関車の真似をしてゐる。尤(もつと)も動かずにゐる機関車ではない。手をふつたり、「しゆつしゆつ」といつたり、進行中の機関車の真似をしてゐる。これはわたしの子供たちに限つたことではないであらう。ではなぜ機関車の真似をするか? それはもちろん機関車に何か威力を感じるからである。或は彼等自身も機関車のやうに激しい生命を持ちたいからである。かういふ要求を持つてゐるのは子供たちばかり

文字遣い

新字旧仮名

初出

「サンデー毎日」1927(昭和2)年9月

底本

  • 芥川龍之介作品集 第四巻
  • 昭和出版社
  • 1965(昭和40)年12月20日