ルクレチウスとかがく
ルクレチウスと科学

冒頭文

緒言 今からもう十余年も前のことである。私はだれかの物理学史を読んでいるうちに、耶蘇紀元(やそきげん)前一世紀のころローマの詩人哲学者ルクレチウス(紀元前九八—五四)が、暗室にさし入る日光の中に舞踊する微塵(みじん)の混乱状態を例示して物質元子(1)[#「(1)」は注釈番号]の無秩序運動を説明したという記事に逢着(ほうちゃく)して驚嘆の念に打たれたことがあった。実に天下に新しき何物もないとい

文字遣い

新字新仮名

初出

「世界思潮」1929(昭和4)年9月

底本

  • 寺田寅彦随筆集 第二巻
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1947(昭和22)年9月10日、1964(昭和39)年1月16日第22刷改版