みのむしとくも |
簔虫と蜘蛛 |
冒頭文
二階の縁側のガラス戸のすぐ前に大きな楓(かえで)が空いっぱいに枝を広げている。その枝にたくさんな簔虫(みのむし)がぶら下がっている。 去年の夏じゅうはこの虫が盛んに活動していた。いつも午(ひる)ごろになるとはい出して、小枝の先の青葉をたぐり寄せては食っていた。からだのわりに旺盛(おうせい)な彼らの食欲は、多数の小枝を坊主にしてしまうまでは満足されなかった。紅葉が美しくなるころには、もう活
文字遣い
新字新仮名
初出
「電気と文芸」1921(大正10)年5月
底本
- 寺田寅彦随筆集 第一巻
- 岩波文庫、岩波書店
- 1947(昭和22)年2月5日、1963(昭和38)年10月16日第28刷改版