きゅうこん
球根

冒頭文

九月中旬の事であった。ある日の昼ごろ堅吉(けんきち)の宅(うち)へ一封の小包郵便が届いた。大形の茶袋ぐらいの大きさと格好をした紙包みの上に、ボール紙の切れが縛りつけて、それにあて名が書いてあったが、差出人はだれだかわからなかった。つたない手跡に見覚えもなかった。紙包みを破って見ると、まだ新しい黄木綿(きもめん)の袋が出て来た。中にはどんぐりか椎(しい)の実(み)でもはいっているような触感があった。

文字遣い

新字新仮名

初出

「改造」1921(大正10)年1月

底本

  • 寺田寅彦随筆集 第一巻
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1947(昭和22)年2月5日、1963(昭和38)年10月16日第28刷改版