僕は鵠沼(くげぬま)の東屋(あづまや)の二階にぢつと仰向(あふむ)けに寝ころんでゐた。その又僕の枕もとには妻(つま)と伯母(をば)とが差向ひに庭の向うの海を見てゐた。僕は目をつぶつたまま、「今に雨がふるぞ」と言つた。妻や伯母(をば)はとり合はなかつた。殊に妻は「このお天気に」と言つた。しかし二分とたたないうちに珍らしい大雨(たいう)になつてしまつた。 × 僕は全然人かげのない松