この「仙人」は琵琶湖(びはこ)に近いO町の裁判官を勤めてゐた。彼の道楽は何よりも先に古い瓢箪(へうたん)を集めることだつた。従つて彼の借りてゐた家には二階の戸棚の中は勿論(もちろん)、柱や鴨居(かもゐ)に打つた釘にも瓢箪が幾つもぶら下つてゐた。 三年ばかりたつた後(のち)、この「仙人」はO町からH市へ転任することになつた。家具家財を運ぶのは勿論彼には何でもなかつた。が、彼是二百余りの瓢箪