せんにん
仙人

冒頭文

この「仙人」は琵琶湖(びはこ)に近いO町の裁判官を勤めてゐた。彼の道楽は何よりも先に古い瓢箪(へうたん)を集めることだつた。従つて彼の借りてゐた家には二階の戸棚の中は勿論(もちろん)、柱や鴨居(かもゐ)に打つた釘にも瓢箪が幾つもぶら下つてゐた。 三年ばかりたつた後(のち)、この「仙人」はO町からH市へ転任することになつた。家具家財を運ぶのは勿論彼には何でもなかつた。が、彼是二百余りの瓢箪

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 芥川龍之介全集 第四巻
  • 筑摩書房
  • 1971(昭和46)年6月5日