そうせきさんぼうのふゆ
漱石山房の冬

冒頭文

わたしは年少のW君と、旧友のMに案内されながら、久しぶりに先生の書斎へはひつた。 書斎は此処へ建て直つた後、すつかり日当りが悪くなつた。それから支那の五羽鶴の毯(たん)も何時の間にか大分色がさめた。最後にもとの茶の間との境、更紗の唐紙のあつた所も、今は先生の写真のある仏壇に形を変へてゐた。 しかしその外は不相変である。洋書のつまつた書棚もある。「無絃琴」の額もある。先生が毎日原

文字遣い

新字旧仮名

初出

「サンデー毎日」1923(大正12)年1月

底本

  • 芥川龍之介作品集 第三巻
  • 昭和出版社
  • 1965(昭和40)年12月20日