まつ
待つ

冒頭文

省線のその小さい駅に、私は毎日、人をお迎えにまいります。誰とも、わからぬ人を迎えに。 市場で買い物をして、その帰りには、かならず駅に立ち寄って駅の冷いベンチに腰をおろし、買い物籠を膝に乗せ、ぼんやり改札口を見ているのです。上り下りの電車がホームに到着するごとに、たくさんの人が電車の戸口から吐き出され、どやどや改札口にやって来て、一様に怒っているような顔をして、パスを出したり、切符を手渡したり

文字遣い

新字新仮名

初出

1942(昭和17)年6月

底本

  • 女生徒
  • 角川文庫、角川書店
  • 1954(昭和29)年10月20日、1968(昭和43)年2月5日改版44版