さいごのこきゅうひき
最後の胡弓弾き

冒頭文

一 旧の正月が近くなると、竹藪(たけやぶ)の多いこの小さな村で、毎晩鼓(つづみ)の音(おと)と胡弓(こきゅう)のすすりなくような声が聞えた。百姓の中で鼓と胡弓のうまい者が稽古(けいこ)をするのであった。 そしていよいよ旧正月がやって来ると、その人たちは二人ずつ組になり、一人は鼓を、も一人は胡弓を持って旅に出ていった。上手(じょうず)な人たちは東京や大阪までいって一月(ひとつき)

文字遣い

新字新仮名

初出

「哈爾賓日日新聞」1939(昭和14)年5月17日~5月27日

底本

  • 新美南吉童話集
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1996(平成8)年7月16日