はえ

冒頭文

一 真夏の宿場は空虚であった。ただ眼の大きな一疋(いっぴき)の蠅だけは、薄暗い厩(うまや)の隅(すみ)の蜘蛛(くも)の巣にひっかかると、後肢(あとあし)で網を跳ねつつ暫(しばら)くぶらぶらと揺れていた。と、豆のようにぼたりと落ちた。そうして、馬糞(ばふん)の重みに斜めに突き立っている藁(わら)の端から、裸体にされた馬の背中まで這(は)い上(あが)った。       二 馬は一条(

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 日輪 春は馬車に乗って 他八篇
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1981(昭和56)年8月17日