しゅんちゅう 
春昼

冒頭文

一 「お爺(じい)さん、お爺さん。」 「はあ、私(わし)けえ。」 と、一言(ひとこと)で直(す)ぐ応じたのも、四辺(あたり)が静かで他(た)には誰もいなかった所為(せい)であろう。そうでないと、その皺(しわ)だらけな額(ひたい)に、顱巻(はちまき)を緩(ゆる)くしたのに、ほかほかと春の日がさして、とろりと酔ったような顔色(がんしょく)で、長閑(のど)かに鍬(くわ)を使う様子が——あの

文字遣い

新字新仮名

初出

「新小説」1906(明治39)年11月

底本

  • 春昼・春昼後刻
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1987(昭和62)年4月16日