わたりどり
渡り鳥

冒頭文

おもてには快楽(けらく)をよそい、心には悩みわずらう。                   ——ダンテ・アリギエリ 晩秋の夜、音楽会もすみ、日比谷公会堂から、おびただしい数の烏(からす)が、さまざまの形をして、押し合い、もみ合いしながらぞろぞろ出て来て、やがておのおのの家路に向って、むらむらぱっと飛び立つ。 「山名先生じゃ、ありませんか?」 呼びかけた一羽の烏は、無帽蓬髪(

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 太宰治全集9
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1989(平成元)年5月30日