セメントだるのなかのてがみ
セメント樽の中の手紙

冒頭文

松戸与三はセメントあけをやっていた。外の部分は大して目立たなかったけれど、頭の毛と、鼻の下は、セメントで灰色に蔽(おお)われていた。彼は鼻の穴に指を突っ込んで、鉄筋コンクリートのように、鼻毛をしゃちこばらせている、コンクリートを除(と)りたかったのだが一分間に十才ずつ吐き出す、コンクリートミキサーに、間に合わせるためには、とても指を鼻の穴に持って行く間はなかった。 彼は鼻の穴を気にしなが

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 全集・現代文学の発見・第一巻 最初の衝撃
  • 学芸書林
  • 1968(昭和43)年9月10日