ぜんぞうをおもう
善蔵を思う

冒頭文

——はっきり言ってごらん。ごまかさずに言ってごらん。冗談も、にやにや笑いも、止(よ)し給(たま)え。嘘(うそ)でないものを、一度でいいから、言ってごらん。 ——君の言うとおりにすると、私は、もういちど牢屋へ、はいって来なければならない。もういちど入水をやり直さなければならない。もういちど狂人にならなければならない。君は、その時になっても、逃げないか。私は、嘘ばかりついている。けれども、一

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 太宰治全集3
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1988(昭和63)年10月25日