これは日本の東北地方の某村に開業している一老医師の手記である。 先日、この地方の新聞社の記者だと称する不精鬚(ぶしょうひげ)をはやした顔色のわるい中年の男がやって来て、あなたは今の東北帝大医学部の前身の仙台医専を卒業したお方と聞いているが、それに違いないか、と問う。そのとおりだ、と私は答えた。 「明治三十七年の入学ではなかったかしら。」と記者は、胸のポケットから小さい手帖(てちょう