しんじゅのことば
新樹の言葉

冒頭文

甲府は盆地である。四辺、皆、山である。小学生のころ、地理ではじめて、盆地という言葉に接して、訓導からさまざまに説明していただいたが、どうしても、その実景を、想像してみることができなかった。甲府へ来て見て、はじめて、なるほどと合点できた。大きい大きい沼を掻乾(かいぼし)して、その沼の底に、畑を作り家を建てると、それが盆地だ。もっとも甲府盆地くらいの大きい盆地を創るには、周囲五、六十里もあるひろい湖水

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 新樹の言葉
  • 新潮文庫、新潮社
  • 1982(昭和57)年7月25日