ヴィヨンのつま
ヴィヨンの妻

冒頭文

一 あわただしく、玄関をあける音が聞えて、私はその音で、眼をさましましたが、それは泥酔の夫の、深夜の帰宅にきまっているのでございますから、そのまま黙って寝ていました。 夫は、隣の部屋に電気をつけ、はあっはあっ、とすさまじく荒い呼吸をしながら、机の引出しや本箱の引出しをあけて掻(か)きまわし、何やら捜している様子でしたが、やがて、どたりと畳に腰をおろして坐ったような物音が聞えまし

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • ヴィヨンの妻
  • 新潮文庫、新潮社
  • 1950(昭和25)年12月20日、1985(昭和60)年10月30日63刷改版