ばら |
| 薔薇 |
冒頭文
技手は手袋を嵌めた両手を、自動車の柁機(だき)に掛けて、真つ直ぐに馭者台に坐つて、発車の用意をして待つてゐる。 白壁の別荘の中では、がたがたと戸を開けたり締めたりする音がしてゐる。それに交つて、好く響く、面白げな、若い女の声でかう云ふ。 「ボヂルや、ボヂルや。わたしのボアがないよ。ボアはどうしたの。」「こゝにございます。お嬢様、こゝに。」「手袋は。」「あなた隠しにお入れ遊ばしました。」 別荘
文字遣い
新字旧仮名
初出
「女子文壇 七ノ八」1911(明治44)年7月1日
底本
- 鴎外選集 第14巻
- 岩波書店
- 1979(昭和54)年12月19日