ばんさん
晩餐

冒頭文

いつか暗くなった戸の外に、激しい雨風の音がする、嵐だ。 親子は、狭い部屋の壁際にぶらさがった、暗い電燈の下の卓(テーブル)に集まって、今夜食をしようとしてゐた。まだ本当に父も母も若かった。そして子供は漸く卓につかまって、立ってる事が出来る程の、くり〳〵と肥ってる女の子だった。 男も女も、その顔にはまだ少しの皺もよってなかった。しかし男の濃い眉毛の陰のくぼんだ優しさうな瞳には、だ

文字遣い

新字新仮名

初出

「文章倶楽部」大正6年2月号

底本

  • 素木しづ作品集
  • 札幌・北書房
  • 1970(昭和45)年6月15日