にわさきのもりのはる
庭さきの森の春

冒頭文

濱へ出る漁師たちの徑に沿うたわたしの庭の垣根は、もと此處が桃畑であつた當時に用ゐられてゐた儘(まま)のを使つてゐる。杭も朽ち横に渡した竹も大方は朽ちはてゝゐるのであるが、其處に生えた篠竹やその間に匐(は)うてゐる蔓草のために辛うじて倒壞を免れてゐる。蔓草も幾種類か匐うてゐる樣であるが、通蔓草(あけび)が最も多い。そしていまその若葉と、若葉の間に垂れて咲いてゐる花とが、まことに美しい。花は初め袋なり

文字遣い

旧字旧仮名

初出

底本

  • 若山牧水全集 第八巻
  • 雄鶏社
  • 1958(昭和33)年9月30日