はなにさん
花二三

冒頭文

梅のかをりを言ふ人が多いが、私は寧ろ沈丁花(ぢんちやうげ)を擧げる。梅のいゝのは一輪二輪づつ枯れた樣な枝の先に見えそめた時がいゝので、眞盛りから褪(あ)せそめたころにかけては誠に興ざめた眺めである。そしてその頃になつて漸く匂ひがたつて來る。もつとも一輪摘んで鼻の先に持つて來れば匂ふであらうがそれでは困る。何處に咲いてゐるのか判らない、庭木の日蔭に、または日向の道ばたに、ありともない風に流れて匂つて

文字遣い

旧字旧仮名

初出

底本

  • 若山牧水全集 第八巻
  • 雄鶏社
  • 1958(昭和33)年9月30日