いえのめぐり
家のめぐり

冒頭文

先づ野蒜(のびる)を取つてたべた。これは此處に越して來た時から見つけておいたもので、丁度季節なので三月の初め掘つて見た。少し過ぎる位ゐ肥えてゐた。元來此處の地所は昨年の春までは桃畑であつた。百姓たちが桃畑の草をとつて畑つゞきの松林の蔭に捨て、毎年捨てられた草が腐つて所謂腐草土となり、その腐草土の下にこの野蒜は生えてゐたのである。しかも無數に生えてゐる。ざつと茹(ゆ)でて、酢味噌でたべる。いかにも春

文字遣い

旧字旧仮名

初出

底本

  • 若山牧水全集 第八巻
  • 雄鶏社
  • 1958(昭和33)年9月30日