あるせいしんいじょうしゃ
或る精神異常者

冒頭文

彼は意地悪でもなく、といって、残忍酷薄な男でもなかった。ただ非常にかわった道楽をもっていたというだけのことだ。しかしその道楽もたいていやりつくしてしまって、いまでは、それにもなんら溌剌たる興味を感じないようになったのである。 彼はたびたび劇場へでかけた。けれど、それは演技を観賞したり、オペラ・グラスで見物席を見まわしたりするのが目的ではなくて、そうしてたびたびいっているうちに、とつぜんに

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • フランス怪談集
  • 河出文庫、河出書房新社
  • 1989(平成元)年11月4日