ちずにないしま |
| 地図にない島 |
冒頭文
一 痛いばかりに澄み切った青空に、赤蜻蛉(とんぼ)がすーい、すーいと飛んでいた。 「もう終りだね、夏も——」 中野五郎は、顔馴染になった監視員の、葦簾(よしず)張りのなかに入りながら呟いた。 「まったく。もうこの商売ともお別れですよ……」 真黒に陽にやけた監視員の圭さんが、望遠鏡の筒先きに止まっている赤蜻蛉を、視線のない眼で見ていた。 夏の王座を誇っていたこのK海水浴場も、赤蜻蛉がすいすい
文字遣い
新字新仮名
初出
「ユーモアクラブ」1939(昭和14)年10月
底本
- 火星の魔術師
- 国書刊行会
- 1993(平成5)年7月20日