ゆがんだゆめ
歪んだ夢

冒頭文

私は、学生時代からの不眠が祟って、つい苦しまぎれに飲みはじめた催眠薬が、いつか習慣的になってしまったものか、どうしてもそれなしには、一日も過すことが出来なくなってしまったのです。 ああ、私からは最早、『壮快な睡眠』は奪いさられてしまったのです。眠られぬ夜——それはどんなに苦痛なものだったでしょう。あの輾轉(てんてん)として、生暖かい床の上に、この体をもてあましている切なさ、苛立(いらだ)

文字遣い

新字新仮名

初出

「秋田魁新報夕刊」1932(昭和7)年6月3、4、7~9日

底本

  • 火星の魔術師
  • 国書刊行会
  • 1993(平成5)年7月20日