こいのいっぱいうり |
恋の一杯売 |
冒頭文
アンナ・スラビナ、私が露西亜(ロシア)共和国の踊りの一隅、朱色の靴にふまれて、とある酒台にもたれている。脂ぽい好奇心に犯された赤い衣服、青い化粧した過去の女性の面影が盛り上った曙色の胸に掲げられている。旗亭ダリコントの熱情の女、アンナ・スラビナの周囲、旅装した中年の三人の外国人が取巻いている。 娘のアンナ・ニコロと私、熱烈な接吻、果しがない。一体アンナ・ニコロの愛情に果しがない。さすが、
文字遣い
新字新仮名
初出
「文芸公論」昭和2年10月号
底本
- 吉行エイスケ作品集
- 文園社
- 1997(平成9)年7月10日