バルザックのねまきすがた
バルザックの寝巻姿

冒頭文

花子の首 一九二四年の倫敦(ロンドン)の冬は陰気であった。私はユーストンの地下鉄の乗換場附近にある玄関に、日章旗を交錯した日本料理店胡月の卓子(テーブル)で、外交官の松岡、画家の山中、トンテム・ハム・コートの伊太利(イタリー)料理店の主人と暗い東洋風の部屋で、日本食の晩餐(ばんさん)後お互に深い沈黙に陥っていた。外は倫敦の深い霧が立ちこめて、青い幻灯の街路を、外套の襟に顔をうずめて各国の女が

文字遣い

新字新仮名

初出

小野クララの筆名で「文芸春秋」昭和4年10月号に掲載。

底本

  • 吉行エイスケ作品集
  • 文園社
  • 1997(平成9)年7月10日