しんば |
神馬 |
冒頭文
豆台の上へ延ばしてゐた彼の鼻頭へ、廂から流れた陽の光りが落ちてゐた。鬣が彼の鈍つた茶色の眼の上へ垂れ下ると、彼は首をもたげて振つた。そして又食つた。 肋骨の下の皮が張つて来ると、瞼が重くなつて来て、知らず〳〵に居眠つた、と不意に雨でも降つて来たやうな音がしたので、眼を開くと黄色な豆が一ぱい口元に散らばつてゐた。で彼は呉れた人をチラツと見たきり、鼻の孔まで動かして又食つた。いくら食つても、
文字遣い
新字旧仮名
初出
「文章世界」博文館、1917(大正6)年7月1日発行、第12巻第7号
底本
- 定本横光利一全集 第一巻
- 河出書房新社
- 1981(昭和56)年6月30日