つみ
犯罪

冒頭文

私は寂しくなつて茫然と空でも見詰めてゐる時には、よく無意識に彼女の啼声を口笛で真似てゐた。すると下の鳥籠の中から彼女のふけり声が楽しく聞えて来る。で、私もつい面白くなつてそれに応へたり誘つたりする。其中に面倒臭くなると彼女を放つたらかしておいた。が、彼女は猶も懸命にふけり続けた。凝乎とそれを聞いてゐると可哀相になつて来るので、又知らず〳〵に相手になつてやつたりした。今も私は彼女を呼びかけた。が、も

文字遣い

新字旧仮名

初出

「萬朝報」萬朝報社、1917(大正6)年10月29日

底本

  • 定本横光利一全集 第一巻
  • 河出書房新社
  • 1981(昭和56)年6月30日