マルクスのしんぱん
マルクスの審判

冒頭文

市街を貫いて来た一条の道路が遊廓街へ入らうとする首の所を鉄道が横切つてゐる。其処は危険な所だ。被告はそこの踏切の番人である。彼は先夜遅く道路を鎖で遮断したとき一人の酔漢と争つた。酔漢は番人の引き止めてゐるその鎖を腹にあてたまま無理にぐんぐんと前へ出た。丁度そのとき下りの貨物列車が踏切を通過した。酔漢は跳ね飛ばされて轢死した。 そこで、予審判事は、番人とはかやうな轢死を未然に防ぐための番人

文字遣い

新字旧仮名

初出

「新潮」新潮社、1923(大正12)年8月1日発行、第39巻第2号

底本

  • 定本横光利一全集 第一巻
  • 河出書房新社
  • 1981(昭和56)年6月30日