ししゅう『はなでんしゃ』じょ
詩集『花電車』序

冒頭文

今まで、私は詩集を読んでゐて、涙が流れたといふことはない。しかし、稀らしい。私はこの「花電車」を読みながら涙が頬を伝って流れて来た。極暑の午後で、雨もなく微風もない。ひいやりと流れて来たのはひと条の涙だけ——ああこれは、おれの涙かなと私は思ひ、詩人の貌をしばらく遠空に描いてゐた。私はこの風顔が好きである。 私は戦争中一番愉しく眺めたのは、アンリ・ルッソオの絵だった。それも汚ならしく皺のよ

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 日本の名随筆23 画
  • 作品社
  • 1984(昭和59)年9月25日