() しばらく芝生の堤が眼の高さでつづいた。波のように高低を描いていく平原のその堤の上にいちめん真紅のひな罌粟(げし)が連続している。正午にウイーンを立ってから、三時間あまりにもなる初夏のハンガリヤの野は、見わたす限りこのような野生のひな罌粟の紅(くれない)に染まり、真昼の車窓に映り合うどの顔も、ほの明るく匂(にお)いさざめくように見えた。堤のすぐ向うにダニューブ河が流れていて、その低まるたびに