びしょう
微笑

冒頭文

次の日曜には甲斐(かい)へ行こう。新緑はそれは美しい。そんな会話が擦れ違う声の中からふと聞えた。そうだ。もう新緑になっていると梶(かじ)は思った。季節を忘れるなどということは、ここしばらくの彼には無いことだった。昨夜もラジオを聞いていると、街の探訪放送で、脳病院から精神病患者との一問一答が聞えて来た。そして、終りに精神科の医者の記者に云うには、 「まア、こんな患者は、今は珍らしいことではあり

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 昭和文学全集 第5巻
  • 小学館
  • 1986(昭和61)年12月1日