めいしょうまんげつ
名娼満月

冒頭文

人皇(じんのう)百十六代桃園天皇の御治世。徳川中興の名将軍吉宗公の後を受けた天下泰平の真盛り。九代家重公の宝暦(ほうれき)の初めっ方。京都の島原で一と云われる松本楼に満月という花魁(おいらん)が居た。五歳の年に重病の両親の薬代に代えられた松本楼の子飼いの娘ながら、名前の通り満月をそのままの美くしさ。花ならば咲きも残らず散りも初(そ)めぬ十九の春という評判が、日本国中津々浦々までも伝わって、毎年三月

文字遣い

新字新仮名

初出

「富士」1936(昭和11)年4月15日

底本

  • 夢野久作全集10
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1992(平成4)年10月22日