「アッハッハッハッハッ……」 冷めたい、底意地の悪るそうな高笑いが、小雨の中の片側(かたがわ)松原から聞こえて来た。小田原の手前一里足らず。文久三年三月の末に近い暮六つ時であった。 石月(いわつき)平馬はフット立止った。その邪悪な嘲笑に釣り寄せられるように松の雫(しずく)に濡れながら近付いて行った。 黄色い桐油(とうゆ)の旅合羽(たびがっぱ)を着た若侍が一人松の間に平伏し