ままこ
継子

冒頭文

どこか遠くで一つか二つか鳴るボンボン時計の音を聞くと、睡(ね)むられずにいた玲子はソッと起上った。 屋根裏の窓に引っかかっている春の夜の黄色い片割(かたわれ)月を見上げながら、洗い晒(さら)しの綿ネルの単衣(ひとえ)一枚に細帯を一つ締めて、三階の物置の片隅に敷いてある薄ッペラな寝床から脱け出した。鼻を抓(つま)まれてもわからない暗黒の中を素跣足(すはだし)の手探りに狭い梯子段(はしごだん

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 夢野久作全集10
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1992(平成4)年10月22日