一 私は「完全な犯罪」なぞいうものは空想の一種としか考えていなかった。丸之内の某社(ぼうしゃ)で警察方面の外交記者を勤めて、あくまで冷酷な、現実的な事件ばかりで研(と)ぎ澄(す)まされて来た私の頭には、そんなお伽話(とぎばなし)じみた問題を浮かべ得る余地すら無かった。そんな話題に熱中している友達を見ると軽蔑(けいべつ)したくなる位の私であった。 その私が「完全な犯罪」について真剣に